総排泄腔遺残症 ( Persistent Cloaca ) のまとめ
概要
6. より引用
- 女児にしか発生しない疾患
- 重症: 総排泄腔の長さが 3 cm以上の症例
- 総排泄腔から切離した尿道、腟、直腸を会陰部に開口させる際に移動する距離が長くなる
- 手術による解剖学的修復が困難
病因
- 総排泄腔が胎生4週に形成されたる
- 総排泄腔は上部に発生する尿直腸中隔により胎生9週 ( 胎生5-8週 ) までに前部と後部に分断される
- 前部が尿路系、後部が直腸・肛門に分化する
- この分離過程の障害がCloacaの発生原因と考えられている
疫学
1. より引用
合併症
- 総排泄腔の長さが 3cm以上 ( 40% ) の症例では合併奇形の頻度が高い
泌尿器合併症
- 約80%に起こる
- 水腎症,低形成または異形成腎,腎欠損,巨大尿管の合併が多い
- 慢性腎不全を発症するリスクが高く,尿路感染の予防と総腎機能のフォローアップが重要
- 総排泄腔長が3cm 以上の場合は 69%、3cm以下の場合は19%に膀胱機能障害をみとめる
- 結果として清潔間欠導尿が必要となるケースが多い
- 本症児の長期予後は腎障害の程度が大きく左右する Semin Pediatr Surg. 2010, Pediatr Surg Int. 2005
- 新生児期の的確な診断と泌尿器科的管理が重要である
- Renal dysplasia、VUR、腎瘢痕が将来的なCKDの予測因子となる可能性 J Urol. 2002
消化管合併症
- 胎児期に尿や胎便が卵管を通過して腹腔内へ流出し,その結果、腹膜炎が生じることがある Surgery. 1966
- 十二指腸閉鎖症、食道閉鎖症など
内性器異常
- 88.5% 子宮奇形、49.4% 重複腟、84.5% 腟狭窄が認められ、そのパターンも多彩
出生前診断
身体所見
- 尿道,膣,直腸が総排泄腔に流入し,外陰部には総排泄腔1孔のみが会陰に開口する
- 外陰 部は内陰唇や外陰唇を区別できない低形成の状態
- 瘻孔造影や人工肛門からの造影,CT, MRIにより共通管が証明されれ ば診断が確定
治療概略
6. より引用
手術
- 排便・排尿機能,生殖機能獲得のためには新生児期からの多段階手術が必要である
直腸
- 総排泄腔に開口し排便ができない
- 出生時に横行結腸 ( 67.0% ) や S状結腸 ( 21.7% ) に人工肛門が造設される
尿道
- 総排泄腔に開口するが、総排泄腔を通じで排尿できる場合とできない場合がある
- 排尿障害が存在する場合は、出生前に腟留水症、子宮留水症、水腎症をきたす
- 出生後に膀胱瘻・腟瘻などの外科的介入が必要
- 膀胱瘻は25.1%に造設されていた
腟
- 放置すると思春期に月経血流出路障害による腟・子宮留 血症が発生する
- 病型によっては肛門形成と同時期に一期的腟形成を行う
- 肛門形成を行い思春期前に、腟形成や腸管を用いた代用腟形成を行う
共通管長 < 3cmの場合
Posterior sagittal approach
- 高位鎖肛に対する術式であり、TUMの登場前に施行されていた
- 直腸を総排泄腔より剥離した後、膣と尿道の間を剥離
- 直腸、膣、尿道を外陰部にそれぞれ開口させる
- 尿道と膣の間の剥離は時問を要し手技的にも非常に困難
- 尿道膣瘻が生じる危険が高い
- 尿道と膣を前庭部に別々に開口させるため通常の外観とは異なることが多い
TUM: Total Urogenital Mobilization
- Penaが報告J Pediatr Surg, 1997
- 総排泄腔長が3.0cm以下の症例に対してより容易で確実な方法
- 膣および尿道を一体として剥離・受動させ、外陰部を形成する術式
- より正常に近い 外観が得られる
- 清潔間欠導尿が必要な患児につ い て も手術後は尿道口の確認が容易となる
- Pena et al. J Pediatr Surg. 2004
- TUMが排尿に与える悪影響はない
- TUMを施行した 49例のうち術後排尿機能は58%が良好な排尿状態を呈した
- TUMを行わなかった 72例での 60%と同等の 結 果
- Warne et al.J Urol. 2004
- TUMでの UGSの完全な受動により神経損傷をもたらす危険性を示唆
- TUMは泌尿生殖洞の支持組織である恥骨尿道靭帯を切離するため術後 長期での腹圧性尿失禁の発生の心配は払拭できない
- 総排池腔遺残症の10例中9例で術前に勝脱機能障害を認める
- TUM施行後にも 5例は著明な跨脱機能障害がある
- うち4例は利尿筋の過活動状態 から弛緩性の腸脱状態に変化した
- この全例が共通管の長さが 3cm以上だった
- TUMの短期成績の報 告は少なくないが,長期追跡の報告がないのは問題
- Matsui et al. J Urol. 2009
- TUM術後の3分の2に膀胱機能障害を認めた
PUM: Partial Urogenital Mobilization
- Rink et al. [J Pediatr Urol.](https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18947635#) 2006
- 13例の先天性副腎過形成を含む 15例に対して施行
- TUMが膀胱機能や性感に影響する可能性がある J Urol. 2008
- TUMのテクニックを基に泌尿生殖洞全体の剥離を恥骨尿道靭帯の直前までにとどめる手術
- 短期成績ながらコスメティックに全例が満足でき,排尿障害もないと報告
- 高位症例には適応できない
共通管長 > 3cmの場合
- 腟をそのまま会陰まで引き下ろすことができず、 vaginal flap や vaginal switch などの腟形成術や、回腸や結腸を用いた代用腟作成を行うことが多い
extended transabdominal urogenital mobilization
- Levitt et al. Semin Pediatr Surg. 2010
- 共通管が3.0cm以上の症例に適応となる
- 開腹して膀胱の前方から恥骨の後壁に沿って剥離する術式
腹仙骨会陰式PUM
- 参観合流部がPC線より高いものを高位とし、高位に対して適応
- 高位症例では合併奇形が多く、機能予後も悪い
- 膀胱鏡下の測定は容易に 1 cm 程度のずれが生じる
- 造影検査による PC 線と三管合流部との位置関係を重視
- 開腹視野で膣後壁と側面を剥離受動し、膀胱頸部の前方剥離は行わないことがポイント
- なるべく膀胱機能を温存するような術式
- Retropubic space には剥離操作を加えない
- 共通管の受動ではなく主に膣の受動を重視する点が TUMとPUMとの相違点て
- 膣が拡大している症例に適応、膣無形成には適応できない
- 体重8kg程度が目安
- VURなどの泌尿器合併症は同時手術とする
予後
- 新生児期から成人期にかけての継続した外科治療が必要
- 外科治療分野も多岐にわたるためチーム医療が重要
- 特に思春期に入った女児では内性器の異常が無月経,生理痛,月経血流出路障害となって出現する
- 思春期早期から婦人科との医療連携が必要となる.さらに
- 結婚や挙児に対して,カウンセリングを含めた精神的支援も重要
Warne et al. J Urol. 2002, J Urol. 2002
- 尿禁制あり: 8割
- 自然排尿: 2割
- CIC: 1割
- 尿路再建術: 半数
- 便禁制あり: 6割
- 便失禁があるか人工肛門造設: 4割
- 腎機能低下: 6割
- 末期腎不全: 2割
- 腎移植: 6%
- 子宮機能あり: 7割
- 正常な生理: 3割
- 流血路障害 ( 子宮留血症・腟留血症 ): 3割
- 一次性無月経: 25%がであった
本邦の全国集計
- 膀胱機能障害: 3割
- CIC: 2割
- 透析または腎移植: 15 例
- 失禁や汚染のない良好な排便状況: 3割
- 永久人工肛門: 7%
- 月経を認めた症例のうち
- 月経異常: 35%
- 月経血流出路障害: 半数、このうち半数が手術
本邦のガイドライン
- 自然排尿のみでの尿禁制獲得においても、CISCを併用しての尿禁制獲得においても、共通管長3cm以下であることが有利な条件
1. 共通管長3cm以下の症例:48例
- 尿禁制が獲得できた症例:34例(71%)
- 自然排尿のみで尿禁制が獲得できた症例:26例(54%)
- CISC併用で尿禁制が獲得できた症例:8例(17%)
2. 共通管長3cm超の症例:34例
- 尿禁制が獲得できた症例:14例(41%)
- 自然排尿のみで尿禁制が獲得できた症例:6例(18%)
- CISC併用で尿禁制が獲得できた症例:8例(23%)
月経血流出路障害
- 子宮・腟形成後の合併症で、思春期になって発生し、大きな問題の一つ
- 乳児期の腟形成後の発生頻度は36%で、子宮摘出を要した症例も5%に存在
- 適切なホルモン治療の施行が、生殖機能の温存に有用である
- 先天性に閉塞をきたしている場合でなくとも、総排泄腔の長さや根治術式の選択、その後の合併症有無など様々な因子が関与して生じうる
- 根本的な治療法は手術であり、術式は開腹による腟再建 ( 症例に応じて、vaginal flap、 vaginal switch、腸管による再建 ) が選択される
- 内科的治療であるホルモン療法
- 子宮内膜刺激を抑制し症状を緩和する
- 急性期の炎症を緩和し、生殖器の機能温存を図るために有用
- 外科治療へのつなぎの治療法としても重要
参考文献
- 総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症 / 窪田 正幸
- 総排泄腔遺残に伴う尿路感染 / 谷 和祐
- 総排泄腔遺残症に対するTotal Urogenital Mobilization / 青木 勝也
- 小児泌尿器科手術 女児外陰部形成術におけるPUMとTUM / 林 祐太郎
- 三管合流部が高い総排泄腔異常症に対する術式の検討 / 東間 未来
- 先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群 ( 総排泄腔遺残、総排泄腔外反、MRKH症候群 ) におけるスムーズな成人期医療移行のための分類・診断・治療ガイドライン