Note of Pediatric Surgery

腸内細菌、R、ときどき小児外科

Nature: 人工甘味料は腸内細菌叢を変化させることで耐糖能異常を引き起こす

www.ncbi.nlm.nih.gov

Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.

最近、ネガティブな報告ばかり続く人工甘味料。腸内細菌に絡めた論文です。簡単に言うと人工甘味料 ( 特に本文ではサッカリンがメインに扱われている ) を投与することで、腸内細菌叢が変化し、代謝物が変化し、耐糖能異常が起こると。

ただしこの論文ではサッカリンの代わりに、同じ量のグルコースをコントロールとして置いています。これを同じ甘味を感じるのに必要なグルコースに変えたらどうなるか?腸内細菌叢は確かにサッカリンの方が悪くなりそうだけど、摂取カロリーは断然グルコース群の方が高くなります。個人的には普通のコーラをガバガバ飲んじゃう人が、ゼロコーラに変えること自体は健康に良さそうな気がしますけどね。

まぁネガティブなデータがたくさん出てるので、かく言う僕もゼロ系の飲料をやめて、すべて炭酸水にしました。完全に気分の問題ですけどね。

Abstract

http://www.nature.com/nature/journal/v514/n7521/abs/nature13793_ja.html?lang=ja

ノンカロリー人工甘味料NAS)は、世界で最も広く用いられている食品添加物の1つであり、痩せた人も肥満の人も同様に日常的に摂取している。カロリー量が低いため、NASの摂取は安全で有益だと考えられているが、その裏付けとなる科学的データは少なく、議論が続いている。本論文では、一般に使用されているNAS製剤の摂取が、腸内微生物相の構成や機能の変化を引き起こして、耐糖能異常の発生を促進することを示す。NASが関与するこうした代謝への有害な影響は、抗生物質投与によって解消される。また、NASのこうした影響は、NAS摂取マウス由来の糞便微生物相、あるいはNASの存在下で嫌気的に培養した糞便微生物相の無菌マウスへの移植によって、完全に移転させることが可能である。我々は、NASで変化し、宿主の代謝性疾患感受性に関連する複数の微生物代謝経路を突き止め、また、健康なヒト被験者でもNASによって同様にディスバイオーシス(腸内微生物相のバランス異常)や耐糖能異常が生じることを明らかにする。総合すると今回の結果は、NAS摂取、ディスバイオーシスおよび代謝異常を関連付けるものであり、従ってNASの大量使用についての再評価の必要性を示している。

Result

Fig.1: 人工甘味料による耐糖能異常はgerm free miceに移植できる

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[ a.b. ] NASグルコース/スクロース/水をコントロールにしてOGTTを施行。NAS群で有意に血糖値が高くなるが、抗菌薬(CPFX+MNZ群とVCM群)を投与するとその上昇は抑えられるようになる。
[ c. ] 高脂肪食を与えたマウス(糖尿病のモデル)でもサッカリン群とグルコース群でOGTTはサッカリン群で高い。
[ d. ] 高脂肪食を与えたマウスに(商用ではない)純サッカリン群と水群で投与するとOGTTは純サッカリン群で上昇するが、CPFX+MNZを投与するとその上昇に差はなくなる
[ e.f. ] 商用サッカリンを食べさせたマウスから採取した便とグルコースを食べさせたマウスの便を移植したマウスにOGTTを施行するとサッカリン便移植群の方が有意に上昇する。純サッカリン群と水群から採取した便でも同様の結果。
[ g.h. ] meta16sのweighted unifrac distanceを主座標分析で解析。サッカリンを投与したマウスのW0とW11を比較すると菌叢の変化が認められる。サッカリンを投与したマウスの便を移植したマウスの便とグルコースを投与したマウスの便を移植したマウスの便を比較しても菌叢が異なる。

Fig.2 サッカリンが修飾する機能の特徴

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[ a. ] サッカリン/水/グルコースを投与した群でWeek0とWeek11の便をshotgun sequencingにかkけた。サッカリン投与群で菌叢が大きく変化しており、増えた菌としてはBacteroides vulgatus、減った菌としてはAkkermansia muciniphilaが挙げられる。
[ b. ] 115のKEGG pathway(※4)をペアワイズ相関分析で水/グルコース/サッカリンで比較したところ、サッカリンと水、サッカリングルコースの間で相関が弱かった。(サッカリン群は他2群と異なっていた)
[ c.d. ] Pathwayではグリカン、特にグリコサミノグリカンの分解に関わる酵素の発現がサッカリン投与群で上昇した。
[ e. ] グリカンの分解に関与すると思われる細菌は、B.fragilis、B.vulgatus、Parabacteroides distasonis、S.aureus、Providencia rettgeriの5種であり、サッカリン投与群で増加していた。
[ f.g. ] サッカリン投与群では、便中の酢酸とプロピオン酸濃度が上昇していた。

Fig.3 サッカリンは腸内細菌を直接変化させる

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[ a. ] 通常のマウスから採取した便とサッカリンを嫌気培養したものをgerm free miceに投与すると、コントロールと比べてOGTTの値が上昇した。
[ b. ] a.のgerm free miceの糞便を解析するとBacteroides優位であり、Clostridialesも多くなっていた。
[ c. ] サッカリンを直接投与した群とサッカリンと共培養した糞便を投与した群では同じ様に、スフィンゴ脂質やグルコース輸送に関する酵素の発現が増えていた。

Fig.4 急激にサッカリンを消費させると血糖値のコントロールがヒトにおいても悪くなり、dysbiosisが引き金となる

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[ a. ]人工甘味料を多く食べる群と食べない群に正常成人を分けると、HbA1cの値は多く食べる群で優位に高かった(ただし正常範囲内)
[ b.c.d. ] 7人の健常者に1週間の人工甘味料の投与を行った。4人はOGTTの上昇を認めたが、3人は変化しなかった。
[ e.f. ] Responderとnon-Responderに分けてmeta16Sをかけて主座標分析を行うと、Responderとnon-Responderの2群に菌叢が分かれ、小さくはあるが差が認められた。
[ g.h. ] Responderの糞便をgerm free miceに移植するとOGTT値の上昇が認められるが、non-Responderの糞便を移植してもOGTTに変化は認められなかった。

参考

1. weighted unifrac distance

http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/16S_rRNA.pdf Unifrac distanceとは、16SrRNAの相同性から系統樹を書き、サンプルに固有の系統樹の枝の長さ/枝全体の長さで算出したもの。各サンプル間のUnifrac distanceを計算し、主座標分析(PCoA)で二次元の散布図にして、各サンプル間の相同性を見る。

Weighted Unifracがリード数を考慮(リード数の重みをつけてある)したもので、細菌叢の構成を表す。一方、Unweighted Unifracはリード数は考慮しないので、純粋に検出された菌種数(細菌叢の構成メンバー)を表す。

2. 主座標分析

d.hatena.ne.jp

http://www.ms.nanzan-u.ac.jp/~matsu/jugyo/statanaly/stat7-1.html

主座標分析は対象間の類似度を元に視覚的に分かりやすく付置する方法。主成分分析との違いは、主成分分析はユークリッド距離(定規で測るごく一般的な距離)をなるべく保ちながら低次元に落とす方法で、主座標分析は他の距離や類似度が使える。

3. ペアワイズ相関分析

ブログは移転しました。 ペアワイズ相関分析とは

カップルデータや双子データという比較的似通った2組のデータの違いを比較する方法。ペアデータでは2群が独立していないので従来の検定法が使えない。また、ペア内で類似している変数があっても、ペアレベルの効果なのか個人レベルの効果なのかがわからないので、2つに分けて考える必要がある。それを可能にした統計手法。

4. KEGGpathway

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detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes:"京都遺伝子ゲノム百科事典"の意味)はバイオインフォマティクス研究用のデータベース。遺伝子、タンパク質、また代謝やシグナル伝達などの分子間ネットワークに関する情報を統合したデータベースである。PATHWAYとは代謝に関与する酵素がMAP上に整理されており、酵素がわかればどういう代謝をするものか調べられるものです。

5.グリコサミノグリカン

http://ja.wikipedia.org/wiki/グリコサミノグリカン">http://ja.wikipedia.org/wiki/グリコサミノグリカン">http://ja.wikipedia.org/wiki/グリコサミノグリカン

グリコサミノグリカン

ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などに代表される多糖。ヘパリンもグリコサミノグリカンに含まれる。主に結合組織に普遍的に存在する。