コホート内ケースコントロール研究: 1. コホート内ケースコントロール研究とは?
0. はじめに
現在、私が関わっているプロジェクトでコホート内ケースコントロール研究を行うことになりました。というのも、腸内細菌叢や糞便中代謝物を測定するのには非常にお金がかかるので、集めた全検体を調べると大変なことになります。ですので、前向きコホート研究で集めた検体や被験者の中から、一部を抽出して解析する方法です。その概要と実際の被験者の抽出方法をまとめたので書いていきたいと思います。
Rでの実行はこちらの記事を参照してみてください。 pediatricsurgery.hatenadiary.jp
1. 特徴
コホート内ケースコントロール研究 Syntehtic case-control study Nested case-control study
- 前向きコホート研究の一部だけを対照群として活用する方法
- アウトカムを発症した被験者をケース ( 症例 )として全員のデータを詳細に調べる
- ケースが発生した時に有る一定の数のコントロールを抽出
- 抽出した被験者のみの詳細なデータを調べる
長所
- ケース・コントロール研究とコホート研究のそれぞれの利点を活かすことができる
- コホート研究の最大の欠点である、時間・費用・手間の問題を解消するためにある
- ケースが発生した集団がコホートとして明確に定義されている
- ケースやコントロールの選択バイアスの問題を回避することが可能
- 解析費用が高いゲノム解析などにもよく使用されるデザイン
短所
- 必要なデータが過去に遡って収集できる状況にしか適応できない
2. 方法
概要
- 登録する被験者の選び方は通常のコホート研究と同じ
- 年齢や性などの最小限のデータを登録しておくのみにとどめる
- 設定したアウトカムが発生するかどうかだけを追跡する
( メタ ) ゲノム研究の場合はスタート時に血液 ( 糞便 ) のみ採取しておく
- この時点では高価なゲノム解析は行わない
ある被験者にアウトカムが起こった際に初めて過去に遡って
- 検査データ・リスク因子の抽出
- ゲノム解析を行う
- アウトカムを起こしていない集団からペアとなる対照 " コントロール "をランダムに抽出
- ケースと同様の解析を行う
コントロールサンプリング
- ランダムサンプリングや密度に基づいたサンプリング ( 人・時間サンプリング )が代表的
時点マッチング
- コホートメンバーがケースとなった時点で、同じ観察期間のリスク集団からコントロールをランダムに選択する
- 同じ観察期間である追跡中のメンバーから、コントロールをランダムに選択する
- ケースとなった人、および一度コントロールとして選択された人も、他のケースが生じた時に追跡中であるならばコントロールとして選択することが可能
- 将来ケースとなるコホートメンバーからもコントロールをサンプリングすることを許容している
- 一見奇妙に感じるが生存時間解析の観点からは正当化される
- ケースも全例を調査する必要はなく、ケースを発生した集団からランダムサンプリングしても良い
- ケース数の3倍から5倍のコントロール数を選択することが多い
- 統計的推測の精度の観点から、10倍から20倍を選択する必要があるとも言われている
- 一度コントロールとして選択されたら、再びコントロールとして選択しないというサンプリング方法もある
- コントロールの情報の増加により若干推定効率が向上する
- しかし、期待されるほどの向上は見られないとされる
- 時点マッチングを行った曝露効果の指標として、オッズ比を用いることができる
- ケースおよびコントロールが曝露と無関係にサンプリングされていれることが必要
解析
- マッチングを用いた場合、これを考慮した解析を行う必要がある
- オッズ比の推定や標準誤差の推定に対して影響を及ぼす
- マッチングを考慮した条件付きロジスティック回帰モデル
- Mantel-Haenszel法などを用いる
- オッズ比の推定や標準誤差の推定に対して影響を及ぼす
- 古典的なケースコントロール研究と異なってオッズ比の解釈に「稀な疾患の仮定」を必要としない
- 時点マッチングを用いたコホート内ケース・コントロール研究では
- 条件付きロジスティック回帰とハザード比の推定に用いられるCox回帰の推定原理が同一となる
- 条件付きロジスティック回帰で推定されたオッズ比をハザード比として解釈できることが明らかになっている